行動経済学者ダン・アリエリーの最新TEDトーク(日本語訳)「あなたはこの世界がどれだけ平等になってほしいと思いますか?」

行動経済学者ダン・アリエリーの最新TEDトーク(日本語訳)「あなたはこの世界がどれだけ平等になってほしいと思いますか?」

行動経済学の第一人者、ダン・アリエリー氏はイスラエル系アメリカ人で心理学と行動経済学の教授。 デューク大学で教鞭を執っており、デューク大学先進後知恵研究センターの創設者、BEworksの共同創業者でもある。アリエリー氏がTEDで行ったプレゼンテーションは780万回以上閲覧されている。

参照動画 : 【TED】How equal do we want the world to be? You’d be surprised
スピーカー : 心理学者/行動経済学者 Dan Ariely(ダン・アリエリー氏)

 

人は自分自身のレンズを通してこの世界を見ている

人生の色々な面において、客観的になるのは良いことです。ただ問題は、私たちは色眼鏡で全ての物事を見てしまっているということです。例えば、簡単な例えとしてビールについて考えてみてください。

もし何種類かのビールを渡されて、その味の濃さや苦さで分類するようにと言われたら、難なくそれぞれのビールを区別するが出来るでしょう。

では、目隠しで利き酒したとしたら?

目隠ししながらだと、先ほどとは結果は少し変わってきます。ほとんどのビールは同じビールだと判断され、基本的にはそれぞれのビールの違いを見分けることは出来きないでしょう、ただギネルビールだけは除きますが(笑)

人体の生理機能についても同じ様に考えることが出来ます。人が何かを思い込んだとき、何が起こるでしょうか?

例えば、ある人々に痛み止めを売りました。何人かの人にはそれは高い痛み止めだと言い、その他の人々には安い痛み止めだと言うとします。すると、高いと言われたグループの方が痛み止めの効果が高かったのです。高いと人々が信じた痛み止めはより痛みを軽減することが出来たのは、そう思い込むことが本来の生理機能をも変えたからに他なりません。

スポーツでも同じことがよく起こりますよね。片方のチームのファンなら、意識しなくてもそのチームの視点から試合の流れを追ってしまいます。

この世の中には不平等は存在しますか?

今言った事は私達が自身の先入観と予測が自分の世界を染めているという例です。しかし、もっと重要な問題に関してはどうでしょうか?たとえば、社会における正義や正しさなどに関する問題についてならどうなるのでしょうか?

そこで私達は、目隠しでの利き酒を行うように不平等を評価出来るのかと考えたのです。そして不平等に関する調査を始め、アメリカと他の国々で大規模なアンケート調査を行ないました。

私達が人々に問いた質問はこうです。「どのような不平等が私達の社会には存在しますか?また、それはどの程度ですか?」

まず、最初の質問について考えていきましょう。仮に私がアメリカに住む全ての人を集め、貧しい人からお金持ちの人を左から右に並べ、5つのグループに分けたとします。

1番貧しい20%の人々、次に貧しい20%の人々、次、そのまた次、そして最後に1番お金持ちの20%の人々ですね。

次に、この5つのグループにはそれぞれどのくらいの富が集中しているのかと質問しました。もっと簡潔にするとしたら、下の二つのグループにはそれぞれどのくらいの富が集中しているか、ということについて想像してみてください。具体的な数字を少し考えてみてください。

こんなこと普段は考えないかも知れないですが、心の中で良いので、具体的な数字を出してみてください。考えましたか?

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それではこれが大部分のアメリカ人が出した答えです。最下層の20%は2.9%の富を持ち、次のグループは6.4%なので、この2つを足すと9%より少し多いくらい。次のグループは12%、その次は20%、そして1番お金持ちの20%のグループは58%の富を所有するだろうと答えました。

おそらくあなたが思った数字と似通っているのではないでしょうか。

さて、現実は一体どうなのでしょうか?現実の数字は少し違います。1番下の20%は0.1%の富を、次の20%は0.2%の富を所有しています。二つ足してで0.3%になりますね。次のグループは3.9%、その次は11.3%、そして1番お金持ちのグループは84%から85%もの富を所有しています。なので、実際私達が所有している富の量と、所有していると思っている富の量は実は全く違うのです。

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人々はどのように富が分配されることを望んでいるか

それでは人々はどのように富を割り振られてほしいと思っているのでしょうか?

そもそもどうすればその事を知ることができるのでしょうか?この事を知るために、人々が本当に望んでいることを知るために、私たちは哲学者のジョン・ラウルズについて思いつきました。

もしジョン・ラウルズについて知っている方ならばご存知かも知れませんが、彼は正しい社会とは何かについて、「正しい社会とは、その社会の中で起きている事を全て把握して尚、どんな地位でもいいのでその社会の中のいたいと思える社会である」との言葉を残しました。

とても素敵な定義だと思います。なぜなら、もしあなたがお金持ちなら、普通はお金持ちがもっと富を手に入れ、貧乏人が富を手放すことを望んでしまうからです。反対に貧乏人なら、もっと平等であることを望むでしょう。しかし、どんな地位に着くかも分からない社会の中に入らなければいけないとしたら、全ての側面から物事を考慮していかなければいけません。

決断した結果が分からないというのは目隠しで利き酒をすることに少し似ていますよね。この事をラウルズは「無知のベール」と呼びました。

次に私たちは、別のアメリカ人を集め、今度は無知のベールを考慮にいれながら次の質問をしてみました。

「自分がどのような地位に着くか分からないとしても住みたいと思える国はどのように富が分配されているのか」と。

そしてこれがその答えです。アンケートに答えた人々は、最下層の20%のグループにどの程度のその国の富を与えたいと思ったのでしょうか?最下層のグールプには国の10%の富を与え、その次には21%、22%、32%程を与えるべきと回答者は答えたのです。

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私たちのサンプルの中でさえ完全な平等を求めている人は誰一人としていませんでした。誰も社会主義がすばらしいアイデアだとは全く思いもしなかったのです。

これが意味するのは、私たちが実際に持っている富と持っていると思い込んでいる富には違いが存在し、それと同程度に与えられるべきと思っている富と実際に持っている富にも違いが存在するということです。

 

やっと本題に移ることができます。実はこれが当てはまるのは富だけではありません。そのほかのことについても同様の質問を投げかけることが出来ます。

たとえば、自由主義の人たちから保守的な人たちを含む世界中の人々に同様の質問をしたところ、基本的には全く同じ回答が返ってきたのです。女性でも男性でも、ナショナルパブリックラジオを聞いている人でも、フォーブスの読者でも、お金持ちと貧乏の人たち両方にこの質問をすると、決まって同じ答え。イギリス、オーストラリア、アメリカではとても似通った結果になりました。

さらに、大学の学部によって違いはあるのかということさえ調査してみました。ハーバード大学のほとんどの学部を調べましたが、裕福な人たちがもっとお金を所有し、富豪はもっと少ない資産を所有すべきだと数人が回答したハーバードビジネススクールでさえ、結果の類似性は驚くほどでした。ここにいる何人かの卒業生は同じことを思っている可能性があるということですね。

私たちはさらに別の状況についても調査することにしました。特に何もスキルを持たない従業員に対してCEOがその従業員に支払う給料の違いの比率はどのくらいかということに関してです。

この質問の回答から、一般的に人がこのことに対してどう思っているか調査した後、今度はその比率がどのくらいであるべきだと思うかと同じ人たちに問いかけました。現実はそこまで悪くないとおもいますよね?赤と黄色がそこまで違わないように見えますよね。しかし、人々が思ったことと実際CEOが払っている給料の比率は全く違いました。なぜならその二つのグループはそれぞれ別のものさしで物事を測っているからです。見えにくいですが、(グラフの中に)黄色と青色はそこにあります。

人々が不満に感じるのは、健康面や教育面の不平等

では、富の所有量の違いによって起こりうるほかの結果についてはどうでしょうか?

富とはただお金を所有しているということだけではありません。私たちは、健康について、処方される薬について、寿命について、新生児の生存確率についても調査していきました。

どうすればこれらについても平等にすることが出来るのでしょうか?若い世代の教育は?お年寄りのための教育はどうでしょうか?

これらすべてのことに関して、私たちが学んだことは、人々は富が不平等であることが気に入っているわけではなく、富の分配が不平等であることが原因で起こる、健康面や教育面での不平等に対してもっと不満を持っている、ということです。

ただ、幼児や小さな子供などまだ一人では生きていけない存在に対しては基本的に、公平性に関する変化には寛容であることも分かりました。なぜなら、子供や幼児には自分たちが置かれている状況に関して責任がないからです。

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私たちはこれからどうしていけば良いのか?

では、ここから学べることは何なのでしょうか?それは私たちが事実として知っていることと望んでいることに格差が生じているということです。知識においての格差とは、どのように人を教育すればいいのか、どのように不平等について、そして不平等から起こる健康、教育、妬み、犯罪率などの結果について考えることが出来るかということ。

そして望みにおいての格差とは、どのようにすれば自分たちが本当に求めているものについて他人と異なる考え方をさせることが出来るのかということです。もう分かりますよね?目隠しをしながら試す、ラウルズの社会の定義なら自己中心的な欲求も取り払ってしまえます。

では、どうすればこれをもっと大きなものさしで、もっと複雑な問題に対して利用することが出来るでしょうか?

最後にもう一つ、行動の格差というものがあります。これらの問題をどう捉え、それに対してどう行動するかということです。答えの一部としては、他人と接するときに、相手のことを一人ではまだ生きられない子供や幼児のように考えるということです。こう考えると普通よりもっと自分から行動したいと思えるようですしね。

まとめると、次にビールかワインを飲みに行く機会があるとき、今までの経験から何が本当なのか、そして何があなたの思い込みから来ているプラシーボ効果なのかということをまずは考えみて欲しいということです。

そして、あなたの人生でのほかの重要な選択においてならそれが何を意味するのか、そして最後に、可能ならこの世界に生きる私たち全員に関わる制度などの問題も考えてみてください。

ありがとうございました。

参照動画 : 【TED】How equal do we want the world to be? You’d be surprised
スピーカー : 心理学者/行動経済学者 Dan Ariely(ダン・アリエリー氏)

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