パーソナリティ障害発症の要因は遺伝か環境か
自分へのこだわり、傷つきやすさ、その結果として生じる愛し下手などを特徴とするパーソナリティ障害は、どのようにして生じるのでしょうか。要因としては、大きく分けて、遺伝的な要因と環境的な要因の2通りが考えられています。
薬物療法を探るうえで、近年盛んになっているのが、神経伝達物質のドーパミンやセロトニンの受容体が何らかの異常を示しているのではないかということを調べる研究です。ただし、脳内の神経伝達物質の受容体の問題だけではないことも、研究を進めれば進めるほど分かってきています。
遺伝的な要因の影響を直接調べる方法として、双生児研究があります。双生児には、遺伝的に同一な一卵性と、遺伝的には通常の兄弟と同じ程度に異なっている二卵性があります。その違いを利用するのが、双生児研究です。
異なる環境で育った7組の一卵性双生児と、同じ環境で育った18組の二卵性双生児について、境界性パーソナリティ障害の有無を調べた研究があります。
同じ環境で育った二卵性双生児には境界性パーソナリティ障害が双子の両方に見られたケースが2組ありました。しかし、異なる環境で育った一卵性双生児には、両方に境界性パーソナリティ障害が見られたケースは、全くありませんでした。
境界性パーソナリティ障害には、遺伝よりも環境の方が重要な影響を及ぼしているということを示す研究として知られています。
他の病気での双生児研究の結果と比較してどうなのか?
2組の実例というのは、評価をするうえで大きな違いと言えるのかが問われるところでしょう。双生児研究では、症例が多くないことが課題です。他の病気で行われた双生児研究の結果と比較してみましょう。
双生児研究によって推定されたパーソナリティ障害への遺伝的な関与は、研究によりバラツキがあり、平均すると、約5割程度と考えられています。環境的な要因と遺伝的な要因は、相半ばすると見るのが妥当かもしれません。
他の病気では、双生児研究の結果は、どうなっているのでしょうか。肥満への遺伝的な要因の影響は約5~8割、知的障害は6~8割程度、高血圧や統合失調症は8割程度、I型糖尿病が9割弱とされています。
このように見てくると、遺伝的な要因の影響が5割程度というのは、環境的な要因が影響することの多さを示していると考えて良いでしょう。
パーソナリティ障害の原因は親子関係?~臨床家の見解~
臨床で治療に携わっている専門家は、近年、急にパーソナリティ障害が存在感を増していると感じると言います。遺伝的な要因は、全体で見れば百年二百年で変わるわけでもないのに、数十年で急速にパーソナリティ障害が問題になっているのは、環境要因の変化以外に考えられないと言います。
環境的な要因とは、幼少期における親との関係です。十分に愛情を注がれ、保護を受けてきた子どもは、安定したパーソナリティを形成します。人格形成の基本となるのは、おおよそ満2歳までとされています。その間の親子関係に何らかの変化が生じてきているのではないかと懸念する専門家が少なくありません。