ストレスチェクの義務化は本質的な解決になるのか?臨床心理士が解説します。

ストレスチェクの義務化は本質的な解決になるのか?臨床心理士が解説します。

今年の2015年12月から50人以上の規模の企業で、従業員のストレスチェックが義務化されることをご存知でしょうか。

政府は、近年の職場を原因としたメンタル不調者や自殺者数の増加傾向にあたって対策を講じることにしたその一環となります。

労働者健康状況調査によると2012年の段階で何らかのメンタルヘルスの対策を実施している職場は、全体の47.2%となっています。
政府はこの数字を2017年までに80%まで高めるという目標を設定しており、職場でのメンタルヘルス不調者の把握と、早期対処を可能にすることが目的となっています。しかし、2015年12月の施行にあたって、一部の専門家からは疑問や懸念の声が上がってきております。

ここでは、ストレスチェック義務化による制度上の問題点を2つご紹介させていただきます。1つ目は、医療へ問題の丸投げになってしまい、本質的な問題解決にならないのではないかということです。

メンタルヘルス不調の原因は、職場環境から家族関係、個人の性格特性など様々なものがあります。
メンタルヘルス不調の原因が、個人の物事の捉え方などの場合は、状態が悪化する前に対処が可能となるかもしれません。

しかし、その原因が職場環境などの外部環境である場合、個人への対処は本質的な解決のアプローチとはなりません。

職場環境でのストレス要因の改善という組織的な取り組みが重要となってきます。
これに対して厚労省は、従業員の匿名性を保ったまま、職場でのストレス傾向がわかるような運用方法を現在検討しております。

そして2つ目は、スティグマという問題があります。

スティグマとは、偏見や恥ずかしさのことを言います。

現段階では、従業員のストレスチェックの結果は企業側には報告されず、従業員本人の申告がなければ、精神科や臨床心理士などの医療機関につなげることはできません。ここで論点となるのがスティグマという問題になります。

このスティグマによって、悩みを持っていても打ち明けない従業員が発生する可能性があります。
自分のもっている悩みを打ち明けることへの恥ずかしさや人事評価に影響するのではないかと懸念が原因になります。
まだまだメンタルヘルスに対する関心や理解が進んでいない日本社会は、恥ずかしさや偏見への恐れを感じやすい環境だと言えるかもしれません。

スティグマをいかに本人に感じさせず、適切な機関で対処するように促すことが重要となってきます。
改善の余地がまだまだある職場のストレスチェック制度ですが、メンタルヘルスへの理解が深まるきっかけになるという一定の効果はもちろんあるかと思います。

このように、メンタルヘルスの問題は、一個人本人だけの問題にとどまりません。職場や家族など様々な要因がありますので、職場のストレスチェック義務化法案によって、少しでも社会全体のメンタルヘルスへの理解が前進することを期待しています。

(執筆:Koh, 監修:鏡 元 )

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