旦那さんはアスペルガー症候群「なんでわかってくれないの」は禁句?

旦那さんはアスペルガー症候群「なんでわかってくれないの」は禁句?

●子どもができたことで気づくことが多い

すでに結婚するような年齢に達している人は、幼い頃にアスペルガー症候群と気づかれることがないまま成人しています。集団生活で困難さを感じることがあっても、自分なりの工夫で対処方法を身につけてきています。そのため、アスペルガー症候群ということが一見して分からない人も少なくありません。

恋人時代には「個性的な人だな」「ちょっと変わっているけど、正直で根はいい人よね」といった感じで、多少のすれ違いがあっても、「一緒に生活していくうちに分かり合えるようになるはず」と思って違和感を無視してしまいがちです。結婚しても、夫婦が互いの仕事で忙しくしている間は、あまり問題が表面化しないようです。

「夫はアスペルガー症候群ではないか」と妻が感じるのは、子どもができた時が最も多いようです。子育ては、夫婦が力を合わせなくてはならない場面が多いからです。たとえ夫が実際に子育てに参加しない状況が多くても、感情的なつながりが妻の精神的な安定に大きく貢献します。妻も夫との精神的な結びつきをそれまで以上に求めます。

しかし、夫がアスペルガー症候群の場合、言わなくても分かり合えるという結びつきを得ることは非常に難しいと言えます。言わなくては分からないのがアスペルガー症候群の人です。育児に不安を抱え、子育てに疲れている女性が「子どもができるくらいの歳月連れ添っているのだから、今更口に出して言わなくても察してよ!」という態度で接しても、アスペルガー症候群の夫には伝わりません。

●コミュニケーション方法を変えてみることも必要

察してもらいたいというのが、多くの女性の自然な要求でしょう。子どもができるくらいの歳月連れ添ったら、自分のことは分かっているのが当たり前と感じ、いちいち要求を言葉に出すのはまどろっこしいと感じることでしょう。しかし、アスペルガー症候群の夫には、以心伝心を要求するのは困難かもしれません

苛立って「なんで分かってくれないの⁉︎」と言う女性は少なくありませんが、「なんで⁉︎」は禁句です。分からないからというに過ぎません。責められていることだけは理解できます。しかし、どうして妻が苛立つのかは、本当に分からないのです。夫にとっては理不尽な怒りをぶつけられたとしか感じられません。関係がこじれるだけです。

自分の気持ちを説明しましょう。要求はストレートに言葉に出しましょう。察してもらえないことに一方的に苛立って拗ねたり怒鳴ったりするのはやめましょう。そのような感情にはアスペルガー症候群の夫は、ストレートに反応します。現在妻が苛立っていることははっきりと分かり、その理由が全く分からないので、理不尽な感情をぶつけられていると不快になるからです。アスペルガー症候群の人は言われればその通りに反応します。言葉を惜しまないことが大切です

●受診を勧めるのは慎重に

夫との間に感情の交流が無いと、妻は著しく精神的に消耗します。「カサンドラ症候群」です。アスペルガー症候群の夫との情緒的なつながりが得られないために妻に生じる心身の問題は、近年「カサンドラ症候群」と呼ばれて注目を集めるようになりました。カサンドラ症候群のブログも多く見られます。

夫と会話することを一切止めて箇条書きのメモしか渡さない日常、夫への苛立ちがエスカレートする毎日などを赤裸々に記したブログが関心を集めています。アスペルガー症候群の夫との関係に悩む女性が少なくないことをうかがわせます

夫がアスペルガー症候群ではないかと感じた妻の多くがアスペルガー症候群の診断を得ることを望んでいます。しかし、夫が社会生活で大きな問題を抱えていない場合には、受診を勧めることは、夫の自己評価を著しく低めます。成人の場合、長い年月自分なりの対処方法で生活を成り立たせてきたからです。

「病気だと分かれば我慢できる」という女性は非常に多く、成人のアスペルガー症候群に対応する専門外来を設置した昭和大学附属烏山病院には多くの人が受診しています。しかし、昭和大学附属烏山病院長によると、実際にアスペルガー症候群だった人は初診全体の約2割にとどまると言います。実際には夫婦間にコミュニケーションが無いだけだったりするケースも少なくないそうです。診断を確定することで夫も妻も本当に前に進めるのか?受診を勧める前に夫婦のあり方をじっくり見直すことも必要かもしれません。

(執筆:木下書子, 監修:臨床心理士 鏡元)

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