「大人のアスペルガー症候群」家族にできるサポートはどんなこと?

「大人のアスペルガー症候群」家族にできるサポートはどんなこと?

●働き始めるまで気づかれないことが多い

アスペルガー症候群への関心が高まってきたのは近年のことです。大人のアスペルガー症候群の人の多くは、自分がアスペルガー症候群だと知りません。その保護者も「少々風変わりなところがある」とは感じることがあっても、自分の子どもが発達障害だとは夢にも思っていません。発達障害が知的な遅れと結びつけて捉えられてきていたからです。

アスペルガー症候群は知的な遅れを伴いません。学校の成績は通常よりも良いこともあります。多動が見られるわけでもないので、学校生活で大きな問題を起こすことは無いと言えるでしょう。集団生活に困難を感じることがあっても、「変わっている」という程度で済まされることが多いようです。

大学に進学すると、授業ごとに教室が変わるため、落ち着かなくなってしまう人もいます。板書も少なくなって、先生の話を書き取る授業形態が中心になるため、授業について行くのが難しくなることもあります。

自分で計画を立てて執筆する卒業論文が大きな負担になることも少なくないようです。ただし、教育機関では個別指導も行われるので、学校を卒業するまでは、大きなトラブルを抱えることは少ないと言えます。

●メンタル疾患の治療中にアスペルガー症候群だと分かることも

アスペルガー症候群の人が自分の抱えている障害のために深刻なトラブルに巻き込まれやすいのは、社会に出てからです。対人関係が重視されることが多くなるためです。

何か問題が生じても、学校時代のように個別に厚いケアがなされるわけではありません。職場で浮いてしまったり、取引先と大きなトラブルを起こしてしまうこともあります。自己評価が下がり、そのためにうつ病を発症したり気分障害を引き起こしたりします。

そのようなメンタル疾患の治療のために精神科や心療内科を受診して、たまたま発達障害に詳しい医師が診察していてアスペルガー症候群が背景にあると判明することがあります。ただし、大人のアスペルガー症候群の場合には「治療対象ではない」として、二次障害の治療だけにとどまり、背景のアスペルガー症候群については対応を拒否されることも少なくありません。

また、大人のアスペルガー症候群を診られる医師はまだ非常に少ないため、背景にアスペルガー症候群があると気づかれないことも多いようです。根本にある対人関係の困難さが十分に医師に理解されないまま、いたずらに受診期間だけが長引いている患者は少なくないようです。

●大人になった家族がアスペルガー症候群だと診断された時に家族にできること

アスペルガー症候群は薬で症状が緩和される類の障害ではありません。幼いうちに発達障害に気づいて早期に療育が始まった子どもと異なり、大人になるまでにさまざまな違和感を抱えながらなんとかその場その場をやり過ごしてきた人にとって、発達障害と宣告されるのは非常に大きな痛手です。自分の努力が一瞬にして否定されるような衝撃を覚える診断です。

自分が何か普通の人とは違うようだと感じていて、脳に障害があるのではないかとの疑いを持って医療期間を受診した場合ならば、アスペルガー症候群との診断を得てかえって前向きになれることもあるようです。

しかし、対人関係がうまくいかないということでうつ病を発症したり気分障害を引き起こしたりして医療期間を受診していた場合には、想定外の展開にひどく混乱します。

アスペルガー症候群の人は想像力に困難さを抱えています。アスペルガー症候群の人には将来の自分を思い描くことができません。過去の積み重ねの中にアスペルガー症候群の人は生きています。その過去が全て「障害」という一言で否定される恐怖感に陥ります。家族がその恐怖感を煽らないことが大切です。

家族も動揺するでしょう。しかし、障害がある家族との歳月の積み重ねのうえに今日があります。家族がその積み重ねを肯定的に受け止めているということを改めて示すことが、大人になってから思いもよらない形で発達障害だと告げられた人への唯一のエールなのではないでしょうか。

(執筆:木下書子, 監修:臨床心理士 鏡元)

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