●自閉症は単一遺伝子疾患ではない
自閉症の発症には遺伝的な影響が強いとされています。ただし、単一遺伝子の変異が原因ではないことも分かっています。自閉症を引き起こす特定の遺伝子変異は見つかっていません。
決定的な原因遺伝子があるわけではないということで、自閉症の遺伝子研究は行き詰まったかに見えました。自閉症の発症に関連がありそうな遺伝子はいろいろと指摘されましたが、ある人ではこの遺伝子、他の人では別の遺伝子が関連しているという具合にばらつきが見られたのです。
ばらついて見える現象に規則性は見出せないのか?自閉症の遺伝子レベルの研究は、地道に諦めることなく続けられてきました。ばらついて見えるものに規則性を見出そうとして試みられたのが、組織ごとに実際にその場で働いている遺伝子をすべて一度に調べてみようという方法です。
●鍵となる自然免疫細胞
自閉症患者の脳と定型発達の人の脳の同じ部位の組織を比較し、それぞれの組織ごとに実際に働いている遺伝子をすべて一度に調べる研究がアメリカで行われています。
自閉症患者の脳では、脳内で免疫を担当している「ミクログリア」という自然免疫細胞の働きが活発であるということが明らかにされていました。この自然免疫細胞の働きが自閉症とどのような関係にあるのか?自閉症患者の脳と定型発達の人の脳を比較することで詳細が明らかになるのではないかと考えられました。
「ミクログリア」という自然免疫細胞は、場合によって炎症を起こす状態と炎症を抑える状態の2つがあるとされています。この2つの状態のうち、自閉症患者の脳内では炎症を抑える状態のミクログリアが活発に活動していることが明らかになりました。そして、炎症を抑える状態のミクログリアが活発に活動すると、神経細胞で働く遺伝子が減少することが確認されました。自閉症患者の脳で神経細胞が正しく働かないことと自然免疫細胞の異常な動きが関係ありそうだということが分かってきました。
この新事実は、2014年12月10日号の『ネイチャー・コミュニケーションズ』に報告されたものです。研究を行っているのは、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学医学部を中心としたグループです。研究グループは、今回の発見によって、ミクログリアがどのような経緯で神経細胞に影響を与えて自閉症を起こすのかということに注目が集まるだろうと見ています。
●自閉症の原因の解明は一筋縄にはいかない
少しずつ進んでいる自閉症の原因研究。自閉症の原因については現在、いろいろなものが挙げられています。親の関わり方には関連性がないと言われるようになっても、安心できない保護者もなかにはいます。「何が問題だったのか?どうしてこの子が自閉症になってしまったのか?」そうした自分を責めるような考え方で頭がいっぱいになってしまう方も少なくありません。
遺伝的に何らかの影響があるというのは、わかっています。しかし、遺伝子検査で特定の遺伝子に問題があると、明確に原因が特定されているわけではありません。遺伝が関係しているということが言われるようになってから、自閉症を調べられる遺伝子検査があるとして遺伝子ビジネスが盛んになってきたようです。
自閉症の遺伝子研究は、着実に進んでいます。決してすぐに謎が解明されるものではありませんが、着実に前進しています。 科学的根拠の無い情報に惑わされることなく、最新の研究情報を知り、適切な理解を深めていくことが大切です。