自閉症の隔世遺伝 まだ1つの仮説にすぎない?

自閉症の隔世遺伝 まだ1つの仮説にすぎない?

●自閉症が隔世遺伝するって本当⁉︎

我が子が自閉症と診断されて落ち着いていられる人はいません。そうした時に医師から「身内の方に自閉症の方がおいでなのではありませんか?自閉症は100%遺伝しますから。」とまで言われ、激しく動揺して身内に原因があったのではないかと調べる人も少なくないようです。

自閉症の発症に遺伝的な影響が強いのは確かです。しかし、「親が自閉症だから子どもも自閉症になる」「自閉症は隔世遺伝する」というようなことは、根拠のない噂です。

遺伝的な影響があると考えられている根拠とは、どのようなものなのでしょうか?自閉症と遺伝について、どのようなことが分かっていて、どのようなことはまだ明らかになっていないのか?分かっていないことも含めて整理しておきましょう。

●一卵性双生児と二卵性双生児の研究

自閉症の発症に遺伝的な影響が強いと言われるようになったのは、一卵性双生児と二卵性双生児の比較研究によります。自閉症の研究では、当初は生育環境、ことに母親との関係を指摘するものが多く見られました。母親が子どもをしっかりと受け止めようとしないために、アイデンティティーを確立しようとする子どもが自閉症を発症するのだと考えられていました。そうした考え方を転換させたのが、一卵性双生児と二卵性双生児の比較研究です。

一卵性双生児も二卵性双生児も、同じ日に同じ母親から誕生し、同じ環境で育ちます。もしも、母親が原因で自閉症を発症するのなら、一卵性双生児も二卵性双生児も自閉症の発症率は同じ程度になるはずです。ところが、研究によって、一卵性双生児と二卵性双生児では、自閉症の発症率に違いが見られました。

一卵性双生児では、一方が自閉症だと非常に高い確率でもう1人も自閉症でした。

しかし、二卵性双生児では、一方が自閉症でももう1人は自閉症でないケースが非常に多く見られたのです。

一卵性双生児の一致率は85%、二卵性双生児の一致率は10%に過ぎないということが明らかになりました。この研究によって、自閉症は遺伝的な影響が強いと考えられるようになりました。

●自閉症は単一遺伝子疾患ではない!

一卵性双生児と二卵性双生児の比較研究がなされたのは1985年のことです。1980年代から1990年代にかけて幾つかの遺伝病の原因遺伝子が解明されました。自閉症も遺伝的な影響が強いとの研究結果を受けて原因遺伝子の解明が試みられました。

染色体のいたるところに自閉症と関係がありそうな遺伝子があるのに、自閉症の原因遺伝子と特定できるものは見つかりませんでした。同じ子どもを調査した場合でも、研究チームによって異なる調査結果が出たりしました。

明確な成果をあげられなかったことで、自閉症は単一遺伝子疾患ではないと考えられるようになりました。単一遺伝子疾患では、両親から特定の遺伝子が伝わるかどうかが発病の原因になります。原因遺伝子が変異を起こしていれば、子どもは特定の疾患に罹ります。

しかし、複数の遺伝子変異が関わっている場合には、遺伝子が変異しているからと言って必ず発病するとは限りません。変異した遺伝子それぞれの影響を突き止めるのは、未だ困難とされています。自閉症の発症と遺伝との関係は、まだまだ解明されていないことがたくさんあります。

(執筆:木下書子, 監修:臨床心理士 鏡元)

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