当事者の声に耳を傾けて~アスペルガー症候群の人の支援~

当事者の声に耳を傾けて~アスペルガー症候群の人の支援~

●本人にとって過剰な負担になりかねない社会適応指導

アスペルガー症候群は知的な障害を伴いません。社会生活を送るうえで著しい困難を抱えていることを本人が周囲の人に分かるような表現で訴えない限り、障害が見過ごされてしまいます。それが日本の現状です。

日常生活に明らかな困難が生じて支援が早期に入る場合、アスペルガー症候群の人々に対する教育的支援、福祉的支援は、周囲の一般社会に適応することを求めることが優先される傾向もあります。アスペルガー症候群の人の学びやすさや暮らしやすさと必ずしも直結しない対応が、行われているケースもあります。

社会適応を優先しすぎる対応が、アスペルガー症候群の人にとって過剰な負担になっていることがあります。道徳の時間にしばしば用いられる役割交代の手法による指導は、アスペルガー症候群の人にとっては大きな負担となっているとの指摘もあります。社会適応を求める立場からの対応は、時にアスペルガー症候群の人にとって学びにくさや暮らしにくさを助長する場合もあります。

社会適応の指導をする際には、アスペルガー症候群の人の心理的負担に十分配慮することが求められます。

●当事者の声に耳を傾けよう!

当事者のあり方と支援が一致していないことがあるのではないかとの反省から、近年、アスペルガー症候群の人自身の声を拾う試みがなされるようになってきました。アスペルガー症候群の人の手記やホームページから、本当のニーズを探ろうという動きが起こっています。

たとえば、アスペルガー症候群の当事者であるニキ・リンゴさんが開設しているホームページの次の一節は、自閉症スペクトラム障害の人の支援を考える研究会で公表され、注目を集めています。

「社会には貢献したい。世界を住みよい場所にしたい。人の役には立ちたい。でも、その『社会』『世界』は抽象的なものであってほしい。役に立つ相手の『人』というのは、具体的な人、顔の見えるダレソレではなく、知らない人、遠くの人、英語で言えば『they』とか『people』とかにあたるような『人』であってほしい。(中略)その他者が具体的な『人』として立ち現れてくるのは困るし、その『人』と『関係』ができるのは恐ろしい。」

アスペルガー症候群の人への支援の在り方を考えていくうえで、本人の声を聞くことは非常に重要です。声を聞くにあたって、本人が開設しているホームページやインターネットのメールを活用するのも有効な方法であろうと言われるようになりました。

対人場面において不安感や恐怖感を抱きやすいアスペルガー症候群の人の生の声を拾う手段としてホームページやメールに注目が集まりつつあります。

●アスペルガー症候群の人への支援

アスペルガー症候群の人が心理的に大きな負担を抱えないように配慮しながら、日常生活をより良く送れるように支援するには、集団適応を強要しない配慮、いじめを受けない配慮をし、静かで安心できる環境、一人で過ごせる場所を提供することが大切です。指示を出す時には、一貫性を持つ指示を視覚に訴える形で出すと受け入れやすいでしょう。

社会に適応するための指導をする際には、静かな環境で、できれば個別指導のもと、具体的な社会場面において大多数の人はどう考え、どのように行動する傾向があるのか、自分は具体的にどう行動すると望ましいのかを知識として教えるのがよいとされています。

社会的な状況を事前に理解しておくことによって、実際の場面に直面した時の不安感や恐怖感を軽減できると言われています。

(執筆:木下書子, 監修:臨床心理士 鏡元)

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